
グループ会社間でも産廃の委託契約書は必要?親子会社の線引きを整理
「うち、親会社の敷地で出た廃棄物も一緒に運んでるんですけど、契約書って要りますか」
そう聞かれて、一瞬止まったことはないでしょうか。あるいは逆に、社内で「同じグループなんだから、そこまで大げさにしなくても」と言われて、うまく説明できなかったことがあるかもしれません。
グループ会社どうしのやりとりは、感覚としては「身内」です。担当者どうしも顔見知りで、電話一本で話が通る。そこにわざわざ契約書を作って、マニフェストを回して、許可証の写しをもらう——正直、面倒に感じるのは自然だと思います。
でも、ここは実務でいちばん静かに抜けやすいところでもあります。悪気があって省いているわけではなく、「社内のことだと思っていた」だけで抜ける。だからこそ、一度きちんと線を引いておくと、あとがずっと楽になります。
結論:産業廃棄物の世界で「自分の処理か、他人への委託か」を分ける物差しは、法人格がひとつかどうかです。
- 同じ法人の中(本社と工場、A事業所とB事業所など)の移動 → 自ら処理。委託契約書もマニフェストも要りません
- 法人が違う(親会社と子会社、グループ内の別会社) → 他人への委託。委託契約書もマニフェストも必要です
資本関係が100%でも、社名が似ていても、同じビルに入っていても、登記上べつの会社なら「他人」として扱われます。グループ会社は「身内」ではあっても、廃棄物処理法の上では「他社」です。
ただし、例外がひとつだけあります。親子会社が環境大臣の認定を受けて「一体的な経営」と認められた場合は、まとめて一つの事業者とみなされます(後述)。使える場面は限られますが、知っておくと判断が早くなります。
1. 分かれ目は「資本関係」ではなく「法人格」
まず、いちばん大事なところから。
廃棄物処理法の基本は、事業者は、自分の事業活動で出た産業廃棄物を、自分で適正に処理するというものです。そのうえで、自分でやりきれない部分を他人に頼むときには、委託基準というルールがかかります。書面で契約すること、許可を持っている相手に出すこと、マニフェストを交付すること——おなじみのあれです。
ここで問題になるのが、「他人ってどこから?」です。
答えは法人格で決まります。資本関係の濃さではありません。
- 100%子会社 → 別法人 → 他人
- 親会社 → 別法人 → 他人
- 同じグループの兄弟会社 → 別法人 → 他人
- 同じ会社の別事業所 → 同一法人 → 他人ではない(自ら処理)
「実質的に一体なんだから」という感覚は、現場としてはよく分かります。人の行き来もあるし、システムも共通かもしれない。でも、登記が別なら別の事業者というのが法律の見方です。ここは、感覚と制度がずれやすいところなので、割り切って覚えてしまうのが早いと思います。

2. 「自ら処理」で済むのはどこまでか
同じ法人の中であれば、事業場から事業場へ廃棄物を動かしても、それは自社内の移動です。委託契約書もマニフェストも要りませんし、収集運搬業の許可も要りません。
ただし、何もしなくていいわけではないという点だけ、添えておきます。自分で運ぶときにも運搬の基準はかかります。車両への表示や、書面を車に備えておくことなどです。このあたりは自ら運搬ならマニフェストは不要?その線引きを整理で詳しく整理しているので、該当しそうなら覗いてみてください。
そして、ここからが本題です。
グループ会社の廃棄物を、自社の車で運んだ瞬間、それは「他人の廃棄物の収集運搬」になります。つまり、収集運搬業の許可が必要な行為です。「同じグループの荷物をついでに積んだだけ」という気持ちでも、扱いは変わりません。
同じように、グループ会社の廃棄物を自社の施設で処理するなら、処分業の許可が必要です。「身内の分だから」という例外はありません。
ここは、責める話ではまったくなくて、知らないまま何年も続いてしまいやすい類のものです。気づいたときが整えどきだと思います。
3. 誰が「排出事業者」かも、一度確かめておきたい
グループ会社が絡むとき、もうひとつ迷いやすいのが「そもそも、この廃棄物は誰が出したことになるのか」です。
判断のよりどころは、その廃棄物が、誰の事業活動に伴って生じたかです。
- 子会社の工場の生産ラインから出た廃棄物 → 子会社が排出事業者
- 親会社が発注し、子会社が請け負った工事から出た廃棄物 → 工事の場合は原則として元請業者が排出事業者(建設現場の産廃マニフェスト、交付するのは元請?下請?)
- 親会社の敷地に子会社が入って作業し、その作業から出たもの → 契約の中身によって変わるので、書面で確かめる
3つ目のような場面は、現場では本当によくあります。「敷地の持ち主」ではなく「事業活動の主体」で考えると整理しやすいのですが、迷ったら思い込みで決めず、契約内容と実態を見て、必要なら自治体に確認するのが結局いちばん早いです。
有償か無償かは、判断に関係しません
「グループ内だからお金のやりとりはしていない」——この場合も、委託であることは変わりません。委託基準は、料金が発生するかどうかで切り替わるものではないからです。
なお、委託契約書には委託料金を書く欄があります。料金が発生しない場合にどう書くかは運用が分かれるところなので、相手方と、必要なら自治体に確かめてから記入すると安心です。契約書の記載事項そのものは産廃の委託契約書に必ず入れる法定記載事項を整理にまとめています。
4. ひとつだけある例外——親子会社の一体的経営の特例
ここまで「グループでも他人です」と書いてきましたが、例外がひとつあります。
親子会社間の一体的な経営を行う者による産業廃棄物の処理に係る特例です。2017年(平成29年)の廃棄物処理法改正で設けられ、2018年4月から動いています。
仕組みはシンプルで、一体的な経営を行っていると環境大臣が認定した親子会社等は、まとめて「一つの事業者」とみなされます。一つの事業者とみなされるということは、その中でのやりとりは自社内の処理になる、ということです。委託契約書もマニフェストも、業の許可も要らなくなります。
ただ、実務の感覚としてお伝えしておきたいのは、この特例は誰でも使えるものではないということです。
- 一方が他方を完全に支配しているような、はっきりした資本関係が求められます
- 廃棄物を的確に処理できる知識・技能、経理的基礎、施設なども見られます
- 認定は環境大臣が個別に行うもので、申請には相応の準備が要ります
ですから、まずは「うちは対象外」という前提で組み立てておくのが安全です。そのうえで、グループ内の廃棄物のやりとりが常態化していて量も多いなら、選択肢のひとつとして検討する価値はあります。似た考え方の認定制度は再生利用認定・広域認定・無害化認定の違い|産廃の3つの認定を整理でも触れています。
大事なのは、認定を受けていないのに「うちは一体だから」と省略しないこと。ここだけです。認定は書面で残るものなので、「受けているかどうか」は必ずはっきり分かります。
5. グループ内取引で、静かに抜けやすいところ
実際に確認してみると、契約書そのものより「周辺」が抜けていることが多いです。よくある形を並べます。
① 契約書がなく、覚書や発注書だけになっている
グループ内は稟議が軽くなりがちで、正式な委託契約書ではなく簡単な書面で済んでいることがあります。法定の記載事項を満たしているか、一度突き合わせてみてください。
② 相手のグループ会社が、その品目の許可を持っていない
「処理会社を持っているグループだから大丈夫」と思っていたら、許可の対象品目に今回のものが入っていなかった、という取り違えです。許可証の写しは、グループ会社が相手でも同じようにもらいます(委託契約書に付ける許可証の写し、最新かどうかの確認手順)。
③ マニフェストを回していない
社内移動のつもりで運用していると、ここが丸ごと抜けます。逆に言うと、ここが抜けている取引が見つかったら、①②もあわせて確認したほうがいいサインです。
④ 契約より先に処理が始まっている
グループ内は話が早い分、「もう運んでいるけど契約はこれから」になりやすいところです。契約は処理の前に交わすのが原則です(産廃委託契約の締結日と処理開始日、契約は「処理の前」に)。
⑤ グループ会社が受けたあと、さらに別の会社へ回している
これは再委託にあたる可能性があります。再委託は原則として認められていないので、実際の流れを一度たどっておくと安心です(産廃の再委託はなぜ原則禁止?例外と確認しておく条件)。
⑥ 収集運搬と処分で、契約の相手が整理できていない
グループ内で運搬と処分を別の会社が担っている場合、契約をどう組むかは通常の取引と同じ考え方になります(産廃の委託契約は収集運搬と処分で分ける?二者契約と三者契約の考え方)。
どれも、一度整えてしまえば次からは回るものばかりです。
6. 明日からできる、負担の軽い一手
全部を今日やる必要はまったくありません。ひとつだけ選んでください。
- グループ会社とやりとりしている廃棄物を、思いつくだけ書き出してみる——3つ4つで十分です。ここが出発点になります
- 書き出したうちの1件について、委託契約書があるかどうかだけ確かめる——「ある/ない/覚書だけ」の3つに仕分けるだけでOKです
- 相手のグループ会社に、許可証の写しをメールで1本お願いする——「社内の書類を整えているので、最新の許可証の写しをいただけますか」だけで通ります
- 管理台帳に「グループ会社」の印をひとつ足す——次の担当者が、同じ場所で迷わずに済みます(産廃書類の管理台帳の作り方|許可証・契約書・マニフェストを一覧に)
- 社内で「別会社なら契約書が要る」とだけ共有しておく——理由は後からでいいので、この一言が次の抜けを防ぎます
いちばん上の「書き出す」だけなら、5分で終わります。
現場で使えるチェックリスト
線引きの確認
- 相手が同一法人か別法人か、登記上の会社名で確かめた
- 別法人なら「委託」にあたると社内で共有した
- その廃棄物が誰の事業活動から出たものか(=誰が排出事業者か)を確かめた
- 工事に伴うものなら、元請・下請の関係を確認した
- 有償・無償にかかわらず委託基準がかかることを、社内で取り違えていない
書類まわり
- グループ会社との間でも、書面で委託契約を交わしている
- 契約書に法定の記載事項がそろっている(覚書だけになっていない)
- 相手の許可証の写しを受け取り、対象品目と有効期限を確かめた
- 契約の締結日が、処理の開始日より前になっている
- マニフェストを交付し、返送の確認まで運用に組み込んでいる
- 契約書と関係書類の保存期間を管理している(産廃の委託契約書はいつまで保存する?契約終了後の管理の順番)
運搬・処理の実態
- グループ会社の廃棄物を自社車両で運んでいないか(運ぶなら収集運搬業の許可があるか)を確かめた
- グループ会社の廃棄物を自社施設で処理していないか(処理するなら処分業の許可があるか)を確かめた
- グループ会社が受けたあと、さらに別の会社へ回っていないか(再委託)をたどった
- 一体的経営の特例の認定を受けていないのに「一体だから」で省略していない
最後に

グループ会社との取引を確認する仕事は、いちばん言い出しにくい部類のものだと思います。
相手は身内で、担当者どうしも仲がよくて、これまで何年も問題なく回ってきた。そこに「契約書、ありますか」と切り出すのは、少し勇気が要ります。疑っているように受け取られないか、細かいと思われないか——そんなことまで考えてしまう。
でも、これは相手を疑う作業ではありません。グループのどちらかで何かあったとき、もう一方まで巻き込まないための備えです。排出した側の責任は、出した後も残ります(排出事業者責任はどこまで及ぶ?措置命令の範囲と日々の確認)。書類を整えておくことは、相手の会社を守ることでもあります。
言い出し方は、こんな形で十分です。
「社内で産廃の書類を一通り整理していまして、御社との分もそろえておきたいんです。委託契約書と許可証の写し、お願いできますか」
「社内の整理のため」という一言があるだけで、たいていはすんなり進みます。相手も、同じことを気にしていたかもしれません。
そして、もし今日「抜けていた」ものが見つかったとしても、それは失敗ではないと思います。誰も気づかないまま流れていたものを、あなたが見つけたというだけのことです。見つかった時点で、そこはもう直せます。
同じグループだから、と流さずに立ち止まった。その一手間が、うちの廃棄物を正しい行き先に届けています。
今日は、グループ会社とやりとりしている廃棄物を書き出すところまで。それで十分です。
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